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その日、 マヒのため自由のきかぬ右手をニンジンに添え、押さえつけようと試みる。まばたき一つの後・・・皮むき器の刃は、右手の指先をかすめていた。容易にニンジンの皮を向こうとしなかった刃物が、いま、いともたやすく彼女の指を傷つけていた。 絆創膏を取りだす/封を切る/台紙からはがす/傷ついた指先にくるりと巻きつける/・・・僕らがこれまで何十回となくこなしながら、気にも止めていないこうした動作のいちいちが、彼女には気のめいるような苦役となった。あたりを血で汚したあげく、彼女が食事にありついたのは、何時間も後のことだった。 |
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| 彼女に こんな生活のひとコマを聞いて、僕は思った。 〜街の中で、「自分で暮らす」〜 あたりまえに聞こえるそのことは、「一人だけで生きる」こととは、違うことだったかもしれない。 (85年度筑波大卒業。現、我孫子市在住K.T.) |